ふたり回し

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漏出ー2

裏で密かに新作が進行中?

 

 敵はどこまで迫っているのだろう。まだ外で戦っているのか、ホールに侵入されてしまったのか。既にハンガーが破壊されていたら、とんだお笑い草だ。それでもアレクは、すれ違う者と肩がぶつかり、何度も突き飛ばされそうになりながら坂を下っていった。ニコライ達が持ちこたえているなら、ハンガーはボルゾイの準備に追われている筈だ。やがて俄かに人混みが開け、突き当りの広場が現れた。エレベーター脇の階段から、次々影が転がり出てくる。アレクはハンガーの裏口を探し、歪んだ鉄の扉を押し開けた。
「オーライ……良し!」
 エンジン音に混ざって、班長の声が聞こえた。整備班の仲間は、まだ生きている。アレクが手摺を頼りに一段ずつ下りると、ステンレスの階段は頑丈な音を立てた。
「フック良し、出してくれ」  
 ピックアップトラックに引かれて、迫撃砲がハンガーを後にした。他所に駆り出されているのか、何人かの姿が見えない。残った先輩達がせわしなく走り回り、非常灯の赤い光を頼りにホースを繋いでいる。
「すんません、遅くなりました」
 班長が振り返り、アレクの姿を認めて目を円くした。
「アレク君! 来ちゃったのか! 悪いけど見ての通りだ。3号車に回ってくれ」
 停電で充填機が止まってしまい、エンジンを空回ししてオイルを吸わせている有様だという。ピットは5つとも充填中の車体で埋まっており、アレクは機関砲のマガジンを取りつけて回った。たかだか15キロのマガジンが病み上がりの体には重く、中々目印の溝が合わせられない。その間も銃声はトンネルを伝って絶えず流れ込み、容赦なくアレクを追い立てた。勇ましく駆けつけた筈が、出来ることと言えば目の前の整備にしがみつくことくらいだ。
「病み上がり、鎖引く元気あるか?」
 アレクが漸く4つめのマガジンを納めると、先輩から声がかかった。3号車の充填が終わり、人力で台から下ろさなければならないという。アレクも温い鎖を握り、掛け声に合わせて全力で引いたが、殆どアレクが鎖に引っ張られるような有様だ。ボルゾイが台から浮くと今度は綱引きの要領で、滑車ごと出口の方へ。車体を下ろした時には、すっかり息が上がっている。
「次、8号車乗せるぞ!」
 外した鎖が音を立て、コンクリートの上に投げだされた。班長が3号車をスタンドごと引いていくと、今度は鎖のフックを8号車にかける作業から再スタートだ。塩辛い汗が額を伝い、非常灯の光を滲ませる。額を拭う間もなく、アレク達は鎖を引いて8号車を懸架した。マガジンを取りつけながら体を休めるにしても、じきに4号車を下さなければならない。項垂れて台車の持ち手に額を乗せると、そのまま眠ってしまいそうになる。
ヨナタン、まだか!」
 ニコライだ。鋭い責めを叩きつけられ、背筋が縮み上がった。
「動かせるのは3台。今4号車の動作チェックをしているところです」
 5台目は後5分で出せるが、6台目以降は10分以上間が空いてしまう。説明を受けるニコライの顔つきは渋い。
ボルゾイよりエレベーターを何とかしてくれ。正面から出しても的にしかならねえからな」
 レフ達が発電機を見に行ってくれているが、復旧を待っていては手遅れになる。最悪人力でもボルゾイを上げなくてはならないだろう。
サルーキのエンジンをウィンチに繋がせています」
 カティを呼んでくる。指揮所に戻ろうとして、ニコライはアレクを見つけた。
「なんだ、アレク。お前、もういいのか?」
 アレクが苦笑して首を振ると、ニコライは牙を見せて笑った。一体何を思いついたのだろうか。
ヨナタン、ちょっとコイツ借してくれや」